『聖闘士星矢』といえば、原作漫画だけの作品ではありません。
テレビアニメ、映画、家庭用ゲーム、スマートフォンゲーム、フィギュア、玩具などへ世界規模で展開されてきた、日本を代表するコンテンツIPの一つです。
その『聖闘士星矢』の作者として知られる漫画家・車田正美氏をめぐり、驚くべき金額の訴訟が起きました。
車田氏と著作権などを管理する関連会社3社は2026年9月2日、長年にわたり経理やライセンス交渉などを任せていた元マネージャーの男性ら11の個人・法人を相手取り、約28億8600万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。
原告側は、少なくとも2018年ごろから2024年までの間に、約46億8600万円もの資金が不正に流出したと主張しています。
すでに約18億円を回収しており、その残額について今回の訴訟で支払いを求めています。
約46億円――『聖闘士星矢』のライセンス収入まで別会社へ?
今回の問題で、ゲーム・アニメメディアとして特に注目したいのがライセンス料です。
『聖闘士星矢』のような大型IPでは、原作漫画の単行本だけでなく、アニメ化、ゲーム化、商品化、海外展開などによってさまざまなライセンス収入が発生します。
原告側によると、元マネージャーの男性は車田氏側の著作権管理会社と似た名称の別会社を設立。
本来であれば車田氏側へ支払われるはずのライセンス料を、男性側が管理する別会社などへ振り込ませていたと主張されています。
さらに原告側は、以下のような資金流出があったと説明しています。
- 会社口座から元マネージャー本人や関係者、関係会社などへの無断送金
- 保険契約や再保険などを経由した海外への資金移転
- 国内外のライセンス収入を本来とは異なる口座へ入金させる行為
なお、これらは現時点では原告である車田氏側の主張です。裁判所によって事実として確定したものではありません。
「先生は人間嫌い」――車田正美氏と外部との接触を遮断していたと主張
今回の件が異例なのは、被害額の大きさだけではありません。
元マネージャーの男性は車田氏と約25年間にわたり関係を持ち、経理や出納だけでなく、出版社やライセンス関係者との対外交渉なども担っていたとされています。
代理人弁護士側の説明によると、元マネージャーは周囲に対し、
「先生は人間嫌いだから」
などと説明し、出版社や取引先などが車田氏本人と直接連絡を取ることを避けさせていたとされています。
これが事実であれば、仕事の窓口、契約、経理、資金の流れといった重要部分が限られた人物に集中していたことになります。
結果として、車田氏本人が「自分の作品から本来どれだけの収益が生まれているのか」を把握しにくい環境が作られていた、というのが原告側の主張です。
発覚のきっかけは2024年の国税調査
では、これほど巨額とされる資金流出が、なぜ発覚したのでしょうか。
きっかけになったとされるのが、2024年の国税当局による税務調査です。
原告側によると、国税当局から車田氏本人宛てに質問状が届いたにもかかわらず、元マネージャー側は車田氏本人に税務調査の存在を知らせていなかったとされています。
さらに代理人側は、元マネージャーが車田氏の筆跡をまねた回答書を作成し、印鑑を使用して提出したとも説明しています。
その後、資金の流れなどが詳しく調査され、今回の問題が表面化したとされています。
約46億8600万円のうち約18億円はすでに回収
原告側が被害として主張している金額は、約46億8600万円です。
ただし、その全額を今回の裁判で請求しているわけではありません。
これまでに約18億円を回収したとしており、残る約28億8600万円について、元マネージャーや関係者、関係法人などに損害賠償を求めています。
46億円という金額だけを見ると途方もない話ですが、『聖闘士星矢』が数十年間にわたって漫画、アニメ、ゲーム、玩具、海外ライセンスなどへ展開されてきた巨大IPであることを考えると、今回の訴訟では作品ビジネスそのものの管理体制が大きな焦点になっています。
車田正美氏「人間不信になりかけた」
長年にわたって仕事を任せてきた人物をめぐる今回の問題について、車田氏は大きなショックを受けたことを明かしています。
報道によると、車田氏は問題が発覚した当初について、信じられなかったと振り返り、「人間不信になりかけた」という趣旨の心境も語っています。
また、問題発覚時には会社口座の残高が少なくなっていたとも説明。
「漫画家として潰れていたかもしれない」という趣旨の発言までしており、単なる金銭トラブルでは済まなかったことがうかがえます。
原画展にも影響――2027年春に開催予定
今回の問題は、ファン向けイベントにも影響したとされています。
車田氏側によると、調査の過程で元マネージャー側との問題が判明したことなどから、予定されていた原画展を中止せざるを得なかったとしています。
一方で、車田氏は今後も漫画家として活動を続ける意向を示しています。
さらに、2027年春には東京都内で原画展を開催する予定であることも明らかにされています。
『聖闘士星矢』ファンにとっては、今回の裁判とは別に注目しておきたい動きです。
『聖闘士星矢』ほどの巨大IPでも「権利管理」が崩れる怖さ
ゲムスクとして今回最も気になるのは、ここです。
『聖闘士星矢』ほど世界的に知られている作品になると、収益源は漫画単行本だけではありません。
- テレビアニメ
- 劇場作品
- 家庭用ゲーム
- スマートフォンゲーム
- フィギュア・玩具
- イベント
- 海外ライセンス
- キャラクターグッズ
作品を中心に、巨大なライセンスビジネスが形成されています。
だからこそ、誰がライセンス交渉を行い、誰が契約を管理し、どの会社のどの口座へ収益が入るのかは非常に重要です。
今回の原告側の主張が裁判で認められることになれば、作者が作品制作へ集中するために経理やライセンス業務を信頼する人物へ任せた結果、その仕組み自体が悪用されたということになります。
しかも原告側は、車田氏と出版社や取引先との直接連絡まで遮断されていたと説明しています。
作品を作るクリエイターと、その作品をビジネスとして動かす管理側。
この二つが完全に分断されたとき、巨大IPであっても作者本人が収益構造を把握できなくなる可能性がある。
今回の訴訟は、ゲームやアニメを含むIPビジネス全体にとっても無視できないケースになりそうです。
現時点では民事訴訟――「46億円横領が確定」したわけではない
最後に重要な点を整理します。
2026年9月2日時点で確認されているのは、車田正美氏側が東京地裁へ損害賠償請求訴訟を起こしたという事実です。
約46億8600万円の資金流出や具体的な手口については、現段階では原告側の主張です。
今後、被告側がどのような反論を行うのか、裁判所がどこまで事実として認定するのかはまだ分かりません。
そのためゲムスクでも、「約46億円を横領した」と確定事実として扱うのではなく、「車田氏側が約46億8600万円の資金流出を主張している」という形で今後の動きを追っていきます。
編集後記
「46億円」という数字だけでも衝撃ですが、ゲムスクとしては『聖闘士星矢』のライセンス収入が問題の中心の一つになっていることの方が気になります。
漫画から始まり、アニメ、ゲーム、玩具、海外展開へと広がっていった『聖闘士星矢』。
作品が巨大なIPになればなるほど、作者本人がすべての契約書や入金をチェックすることは現実的ではありません。
だからこそ、管理を任せる人間や会社を信頼する必要があります。
しかし、その信頼関係が崩れれば、作品がどれだけ売れていても作者側へ正しく利益が届かないという事態が起こり得ます。
今回の裁判で、約46億8600万円とされる資金が実際にどのように動いていたのか。
そして『聖闘士星矢』を含むライセンス契約をめぐって何が行われていたのか。
ゲーム・アニメファンとしても、今後の裁判の行方は注目しておきたいところです。


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