タルが迫っているとき、親指の位置を確かめるために画面から目を離したくはない。1982年6月のゲーム&ウオッチ版『ドンキーコング』で、任天堂の開発陣が十字ボタンの中央を少しへこませたのは、手元を見ずに操作できるようにするためだった。
ゲームセンターの遊びを、折りたたみ機へ
アーケード版が登場したのは1981年。翌年の携帯版は、折りたたみ式のマルチスクリーン機で、タルをかわしてレディを助ける遊びを再構成した。任天堂の開発者インタビューで出石武宏は、限られた液晶の表示パターンで遊びを成立させるため、何度も下絵を描き直したと振り返っている。
業務用の画面を縮めて終わりという仕事ではない。何を表示すればタルの動きを読めるか。どこで左右に動き、どこで上下に動くか。画面を作り直すのと同時に、その画面に合った指の動きも決める必要があった。
横井軍平が確かめたのは、指先の感触
同じインタビューによると、ハード担当者は試作品を削っては横井軍平に触ってもらい、形状を詰めた。中央の小さなくぼみは、手元を見ないまま方向を選べるようにする工夫の一つだった。
中央の感触を指が覚えていれば、押す方向を変えるときにも基準が残る。画面ではタルの位置を読み、手元では親指だけで入力する。いまのゲーム機では当たり前に思える分担も、当時の開発陣にとっては、試作品を手に取って確かめる必要のある設計だった。
ファミコンの1年前に、十字ボタンは採用されていた
任天堂の資料では、この携帯版が十字キーを初採用した作品で、ファミコン版『ドンキーコング』の発売は翌1983年。ゲームセンターで始まった遊びが携帯機へ移る途中で、任天堂の家庭用コントローラーでも見慣れた操作の形が先に試されていた。
手元に十字キーがあれば、次に遊ぶとき、画面を見たまま親指を中央から左右へ動かしてみてほしい。入力装置の工夫は、押しやすさだけでなく、プレイヤーがどこを見続けられるかにも表れる。



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