NVIDIAはなぜGeForce NOWを始めたのか? GPUを売る会社がクラウドゲームへ進む理由

NVIDIAがGPU販売に加えてGeForce NOWによるクラウドゲーミングを始めた理由を表現した記事サムネイル ゲームの歴史

NVIDIAは、GeForce RTXシリーズを販売している会社です。

高性能なゲーミングPCを組みたい人は、NVIDIAのGPUを搭載したグラフィックボードを購入します。

ところが、そのNVIDIAは「高性能なグラフィックボードを持っていなくても、最新のPCゲームを遊べる」というサービスを提供しています。

それが、クラウドゲーミングサービスの「GeForce NOW」です。

一見すると、妙な話です。

20万円、30万円のゲーミングPCを買わなくても、古いPCやMac、スマートフォンなどから高性能なゲーム環境を利用できる。

それでは、NVIDIA自身のグラフィックボードが売れなくなるのではないでしょうか。

しかし、NVIDIAの狙いはそこではありません。

NVIDIAは、すべての利用者にGPUを買わせようとしているのではなく、GPUを買う人にも、買わない人にも、NVIDIAの計算能力を使わせようとしています。

GeForce NOWは、グラフィックボード販売をやめるためのサービスではありません。

NVIDIAが、これまでゲーミングPCを買えなかった人まで顧客にするために作った、もう一つの入口なのです。

GeForce NOWとは何なのか

GeForce NOWは、NVIDIAのクラウドゲーミングサービスです。

通常のPCゲームでは、自宅にあるパソコンがゲームを動かします。

CPUやGPUがゲームの内容を計算し、キャラクター、建物、光、影などを画面へ描きます。

高画質や高フレームレートで遊ぶには、高性能なCPUやGPUが必要です。

GeForce NOWでは、この処理を自宅のパソコンで行いません。

ゲームを動かすのは、NVIDIAのデータセンターに置かれた高性能なゲーミングサーバーです。

  1. プレイヤーがコントローラーやマウスを操作する
  2. 操作情報がインターネット経由でNVIDIAのサーバーへ送られる
  3. サーバー上のGPUがゲームを動かす
  4. 完成したゲーム映像が動画のように利用者へ送られる
  5. 利用者の端末に映像が表示される

そのため、利用者の端末自体に最新のグラフィックボードが入っていなくても、対応条件を満たせば高性能なゲーム環境を利用できます。

利用者が買うのはGPU本体ではなく、クラウド上にあるGPUを使う権利です。

始まりは2012年のGeForce GRIDだった

NVIDIAがクラウドゲームを始めたのは、最近ではありません。

現在のGeForce NOWにつながる構想は、2012年に発表された「GeForce GRID」までさかのぼります。

GeForce GRIDは、高性能なゲームをクラウド上で動かし、テレビ、PC、タブレット、スマートフォンなどへ配信するためのプラットフォームでした。

NVIDIAは当時から、ゲームを動かす高性能GPUを利用者一人ひとりの家庭へ置くのではなく、データセンターへまとめて置く構想を持っていたのです。

ただし、2012年当時は現在ほど条件が整っていませんでした。

  • 家庭用インターネット回線が現在より遅い
  • 通信の遅延が大きい
  • 映像圧縮技術が未成熟
  • クラウドサーバーの設置地域が少ない
  • 対応端末が限られている
  • ゲーム会社との契約や権利処理が複雑

クラウドゲームは、ゲームをサーバーで動かせば完成するものではありません。

プレイヤーがボタンを押してから、その結果が画面に表示されるまでの時間を短くする必要があります。

映像も、文字が潰れたり、敵が見えなくなったりしない品質で送らなければなりません。

NVIDIAは10年以上をかけて、GPU、映像圧縮、通信、サーバー運用を改善してきました。

GeForce NOWは2020年に正式サービスへ進んだ

GeForce NOWは長期間のテストを経て、2020年に正式サービスとして一般へ開放されました。

NVIDIAが当時示した問題は単純でした。

PCゲームを遊ぶ人は世界中にいる。しかし、最新ゲームを動かせる高性能なPCを持っている人は、その一部しかいない。

高性能なゲーミングPCを持っていないことが、PCゲーム市場へ参加できない理由になっていたのです。

GeForce NOWは、その壁を下げるためのサービスでした。

利用者が所有しているSteam、Epic Games Store、Xbox、Ubisoft Connectなどの対応ゲームを、NVIDIAのクラウド環境で動かします。

ゲームそのものをNVIDIAから買うことが中心ではありません。

ゲームは対応する販売店で購入し、NVIDIAにはゲームを動かすためのクラウド利用料を支払います。

ゲームを売る店と、ゲームを動かす高性能PCを提供する会社を分けたのが、現在のGeForce NOWです。

NVIDIAはなぜクラウドゲームを始めたのか

ここからが本題です。

NVIDIAがクラウドゲームを続ける理由は、利用者に親切だからというだけではありません。

当然ながら、NVIDIA側にも明確な事業上の狙いがあります。

高性能なゲーミングPCを買えない人も顧客にできる

GeForce RTXを搭載したゲーミングPCを購入するには、まとまった金が必要です。

高性能を求めれば、パソコン本体だけで20万円や30万円を超えることも珍しくありません。

学生や家庭にとっては、簡単に出せる金額ではありません。

これまでNVIDIAは、グラフィックボードやゲーミングPCを購入した人からしか、大きな売上を得にくい構造でした。

しかしGeForce NOWなら、高性能PCを買えない人でも月額料金で利用できます。

GeForce NOWは、今までNVIDIAの高性能GPUを買えなかった人を、新しい有料利用者へ変えるサービスです。

GPUを買わない人もNVIDIAの利用者にできる

世の中には、ゲーミングPCを買う金はあっても、あえて買わない人もいます。

  • ゲームをする時間が少ない
  • 特定のゲームしか遊ばない
  • 数年ごとの買い替えが面倒
  • 故障や修理を避けたい
  • 大きなデスクトップPCを置きたくない
  • Macや事務用PCを使い続けたい

こうした人は、GeForce RTXのグラフィックボードを購入しない可能性があります。

何もしなければ、NVIDIAにとって顧客になりません。

GeForce NOWがあれば、ローカルPCを買わない人からも利用料を得られます。

古い端末をゲーム機に変えられる

GeForce NOWは、対応するWindows PC、Mac、スマートフォン、タブレット、テレビ、携帯ゲーム機などで利用できます。

ゲームの重い計算はクラウド側が行うため、利用者側の端末に最新のGPUは必要ありません。

もちろん、映像を正常に表示する性能、対応OS、十分な回線、正しい映像端子などは必要です。

それでも、自宅にある端末を生かせる可能性があります。

端末の種類が増えれば、NVIDIAのクラウドGPUを使う入口も増えます。

買い切りだけでなく、継続課金を得られる

グラフィックボードは、基本的に買い切り商品です。

利用者が一度GPUを購入すると、次に買い替えるまで数年間、新しい売上が発生しないことがあります。

GeForce NOWは月額または一定期間ごとの契約です。

利用者が契約を続ける限り、NVIDIAには継続して売上が入ります。

ただし、クラウド事業にはデータセンター、電力、通信、保守、設備更新などの費用もかかります。

月額売上がそのまま利益になるわけではありません。

それでも、商品を一度売って終わる形とは違い、長期的な関係を作れる利点があります。

サーバー側をNVIDIAの都合で更新できる

家庭用のゲーミングPCは、利用者が買い替えなければ性能が変わりません。

新しいGPUを発売しても、全員がすぐ購入するわけではありません。

クラウドなら、NVIDIAがデータセンター側の設備を更新できます。

利用者が新しいパソコンを組み直さなくても、対応地域や契約内容によっては新世代のクラウド環境を利用できます。

GeForce NOWは、当初の環境からRTX 3080級、RTX 4080級へ進み、その後はBlackwell世代のクラウド環境も発表されました。

クラウドでは、利用者がGPUを買い替えるのではなく、サービス提供者が設備を更新します。

GeForce NOWはグラフィックボード販売を邪魔しないのか

ここで、最初の疑問へ戻ります。

GeForce NOWが便利になれば、GeForce RTXを買う人が減るのではないでしょうか。

一定の影響はあるでしょう。

クラウドで十分だと判断し、ゲーミングPCの購入をやめる人は存在します。

しかし、すべての利用者がクラウドへ移るわけではありません。

ローカルPCを選ぶ人

  • 最低遅延を求める競技プレイヤー
  • 回線状態に左右されたくない人
  • 長時間ゲームをする人
  • MODを自由に使いたい人
  • 動画編集や配信にもPCを使う人
  • 対応ゲームの制限を受けたくない人
  • 機材を所有したい人

GeForce NOWを選ぶ人

  • 高額なPCを一括購入できない人
  • ゲームをする時間が限られている人
  • 対応する数本のゲームを中心に遊ぶ人
  • 古いPCやMacを使いたい人
  • 部品交換や修理を避けたい人
  • 複数の端末から遊びたい人

両者は一部で重なりますが、完全に同じ客ではありません。

NVIDIAは、最高性能を所有したい人にはGeForce RTXを売り、所有する必要がない人にはGeForce NOWを提供しています。

どちらを選ばれても、NVIDIAのGPUと技術が使われる構造です。

NVIDIAはゲーム販売会社になろうとしているのか

GeForce NOWは、PlayStationやXboxのような専用ゲーム機とは少し違います。

NVIDIAが中心になってゲームを制作し、自社の販売店だけでソフトを売る仕組みではありません。

GeForce NOWは、主要なPCゲームストアと接続します。

  • Steam
  • Epic Games Store
  • Xbox
  • Ubisoft Connect
  • Battle.net
  • EA app
  • GOG

利用者は、対応するストアで所有しているゲームをクラウドで動かします。

つまりNVIDIAが狙っているのは、ゲーム販売店そのものをすべて置き換えることではありません。

複数のゲームストアの上に乗り、ゲームを動かす共通の高性能基盤になることです。

道路に例えるなら、ゲーム会社が車を作り、ゲームストアが車を販売し、NVIDIAがその車を走らせる高速道路を提供する形です。

対応ゲームが重要になる理由

クラウド側にどれほど高性能なGPUがあっても、遊びたいゲームが対応していなければ意味がありません。

GeForce NOWでは、ゲーム会社やパブリッシャーがクラウド配信を認めたタイトルを中心に提供します。

技術的にゲームを起動できることと、正式なサービスとして配信できることは別問題です。

NVIDIAは現在、すぐに起動できるReady-to-Playタイトルに加え、対応するSteamゲームをクラウド環境へインストールして遊ぶInstall-to-Playを展開しています。

公式FAQでは、両方式を合わせて4,500本以上のライブラリが案内されています。

対応ゲームを増やすことは、GPUの性能向上と同じくらい重要です。

なぜ今になってクラウドゲームが現実的になったのか

クラウドゲームの考え方は昔からありました。

それでも広く普及しなかった最大の理由は、遅延と画質です。

クラウドゲームでは、次の処理を短時間で終わらせる必要があります。

  1. 利用者の操作をサーバーへ送る
  2. ゲーム内へ操作を反映する
  3. GPUが新しい画面を描く
  4. 映像を圧縮する
  5. 映像を利用者へ送り返す
  6. 端末が映像を表示する

このどこかで時間がかかると、操作が遅れて感じられます。

現在は、光回線、高速なデータセンターネットワーク、GPUによる映像処理、NVIDIA Reflexなどの低遅延技術が進歩しました。

GeForce NOW Ultimateでは、対応条件下で240fpsを超える高フレームレート配信も提供されています。

これは、クラウドゲームが低性能端末で軽いゲームを遊ぶだけのサービスではなく、競技性のあるゲームまで狙い始めたことを意味します。

クラウドゲームは万能ではない

ここまで読むと、ゲーミングPCを買う必要がなくなるように見えるかもしれません。

しかし、現時点のクラウドゲームには明確な制約があります。

  • 回線障害の影響を受ける
  • Pingやジッター、パケットロスに左右される
  • サーバーから遠い地域では不利になる
  • サービス側の障害やメンテナンスがある
  • すべてのゲームが対応しているわけではない
  • MODや外部ツールに制限がある
  • 月額料金を払い続けてもPCは手元に残らない
  • 最高水準の最低遅延ではローカルPCが有利

したがって、GeForce NOWが得かどうかは、月額料金だけでは決まりません。

遊びたいゲーム、利用時間、回線品質、求める遅延、配信や編集の有無まで考える必要があります。

NVIDIAが本当に売りたいものは何なのか

以前のNVIDIAは、グラフィックボードを販売する会社として見られていました。

しかし、現在のNVIDIAが提供しているものは、物理的なGPUだけではありません。

  • ローカルPC向けのGeForce RTX
  • AI企業向けのデータセンターGPU
  • 高速ネットワーク
  • CUDAなどのソフトウェア
  • クラウドから使うGeForce NOW

共通しているのは、NVIDIAの計算能力と技術環境を使わせることです。

自宅のパソコンにNVIDIA製GPUが入っているか、遠くのデータセンターに入っているかは、提供方法の違いにすぎません。

NVIDIAが目指しているのは、すべての人にGPUを買わせることではない。すべての人にNVIDIAのGPUを使わせることである。

GeForce NOWは、その戦略を最も分かりやすく見せるサービスです。

結論:NVIDIAはGPUを売る会社から、GPU性能を提供する会社へ進んでいる

NVIDIAは、グラフィックボード販売をやめるためにGeForce NOWを始めたのではありません。

高性能なゲーミングPCを買う人には、これまでどおりGeForce RTXを販売します。

高額なPCを買えない人、買わない人、複数端末で遊びたい人には、GeForce NOWを提供します。

企業には、AIやデータセンター向けのGPU、通信機器、サーバー、ソフトウェアを提供します。

NVIDIAは、GPUを所有させる商売と、GPUをクラウドから利用させる商売の両方を押さえようとしています。

そのため、GeForce NOWはGeForce RTXの敵ではありません。

NVIDIAが、グラフィックボードを購入しない利用者まで取り込むための、もう一つのGeForceなのです。

次の記事では、2012年のGeForce GRIDから現在のGeForce NOWまで、NVIDIAのクラウドゲーミングがどのように進化してきたのかを詳しく追います。

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