RPGを始める。
町を出る。
草原を少し歩く。
敵が現れた。
スライム。
小さい。
丸い。
かわいい。
そして大体、弱い。
ゲームをあまり知らない人でも、
スライム=序盤に出てくる弱いモンスター
というイメージを持っているかもしれません。
でも、ここで一つ疑問があります。
なぜスライムは弱いのでしょうか。
液体の体なら、剣で斬っても効かなそうです。
形も自由に変えられそうです。
隙間から侵入することもできそうです。
むしろ普通に考えれば、かなり怖い生き物です。
実際、昔の西洋ファンタジーに登場するスライム系の怪物は、必ずしも「初心者向けのかわいい敵」ではありませんでした。
それなのに、日本のゲームではスライムが弱い敵の代表になりました。
その大きな転換点が、1986年の『ドラゴンクエスト』です。
- 結論:スライムが弱いのではなく「ドラクエのスライム」が強すぎた
- ドラクエ以前にもスライムのような怪物はいた
- ゼラチナス・キューブは普通に危険
- 1986年、ドラゴンクエストが登場する
- 鳥山明さんが「怖い怪物」を愛嬌のあるキャラクターにした
- 実はスライムのデザインは最初から完成していたわけではない
- なぜ「しずく型+顔」は強かったのか
- 弱いからこそプレイヤーが安心して戦える
- 「弱いのに人気者」という珍しいモンスターになった
- スライムだけでゲームが作れるまでになった
- メタルスライムは「弱いスライム」の常識を逆手に取った
- その後、日本のRPGで「最初の雑魚」のイメージが広がった
- かわいい敵を最初に出す意味
- もしドラクエのスライムが怖かったら?
- 友達に話せるゲーム雑学
- まとめ:スライムは「弱い敵」からゲーム界のスターになった
- 参考資料
結論:スライムが弱いのではなく「ドラクエのスライム」が強すぎた
最初に結論を言います。
スライムという怪物そのものに、
弱くなければならない
という決まりはありません。
昔のファンタジーでは、スライムや粘液状の怪物は、むしろ不気味で危険な存在として扱われることがありました。
それが日本では、
- 小さい
- 丸い
- 笑っているような顔
- 序盤から登場する
- 倒しやすい
というイメージに変わっていきます。
その象徴となったのが、『ドラゴンクエスト』のスライムです。
「スライムという怪物が弱かった」のではなく、「弱くてかわいいドラクエのスライム」があまりにも有名になった。
こちらの方が実態に近いでしょう。
ドラクエ以前にもスライムのような怪物はいた
『ドラゴンクエスト』がスライムという怪物を発明したわけではありません。
西洋のファンタジーゲームやTRPGでは、それ以前から、形の定まらない粘液状の怪物が登場していました。
例えば『Dungeons & Dragons』では、この種類の怪物をOoze(ウーズ)として分類しています。
ウーズは、固定された形をほとんど持たず、洞窟やダンジョンなどに生息し、生物や死骸などを取り込んで食べる怪物です。
代表的なものには、
- Gelatinous Cube
- Black Pudding
- Gray Ooze
などがあります。
名前だけ聞くとゼリーやプリンみたいですが、全然かわいくありません。
むしろ、
気づかないうちに近づかれて、そのまま体を包み込まれて溶かされる
ような怪物です。
つまり元々のスライム系モンスターには、
「何を考えているのか分からない、不気味な粘液生物」
というホラー寄りの性格もありました。
ゼラチナス・キューブは普通に危険
D&Dの有名なスライム系モンスターに、Gelatinous Cube(ゼラチナス・キューブ)があります。
巨大な透明ゼリーのような怪物です。
ダンジョンの通路をゆっくり進み、触れた生物を体内へ取り込んでしまいます。
現在のD&Dルールでも、体内に敵を取り込み、酸によるダメージを与える能力を持っています。
つまり、
勇者が剣を振ったら一撃で消える
というタイプではありません。
下手をすれば、勇者の方がゼリーの中に入れられます。
「スライム=弱い」という感覚は、ファンタジー全体の常識ではないのです。
1986年、ドラゴンクエストが登場する
そして1986年。
ファミリーコンピュータ用ソフト『ドラゴンクエスト』が発売されます。
ゲームデザインを担当したのは堀井雄二さん。
キャラクターやモンスターのデザインを担当したのが、鳥山明さんです。
ドラゴンクエスト公式サイトでは、初代について、
誰にでも親しみやすいRPG
として作られたと説明されています。
ここが重要です。
当時のコンピューターRPGは、現在よりも複雑で、一般の家庭用ゲームユーザーには分かりにくいジャンルでした。
そこで『ドラゴンクエスト』では、ゲームの仕組みや文章、キャラクターなどを分かりやすくしました。
モンスターも例外ではありません。
鳥山明さんが「怖い怪物」を愛嬌のあるキャラクターにした
スクウェア・エニックスは、鳥山明さんについて、スライムをはじめとしたモンスターを「魔物でありながらもどこか愛らしい」存在として描いたと振り返っています。
これが非常に大きい。
もし初めてRPGを遊ぶ小学生が、町を出た直後に、
内臓のような粘液。
人間を溶かしている巨大なゼリー。
目も口もない不気味な怪物。
こんな敵と出会ったらどうでしょう。
かなり怖いゲームになります。
しかし『ドラゴンクエスト』のスライムは違います。
一目見れば分かります。
敵ではある。
でも怖くない。
むしろ少しかわいい。
初心者が最初に戦う相手として非常に優秀なデザインだったのです。
実はスライムのデザインは最初から完成していたわけではない
堀井雄二さんと、当時『週刊少年ジャンプ』編集者だった鳥嶋和彦さんの対談では、初代『ドラゴンクエスト』のモンスターデザインについて興味深い話が出ています。
堀井さんがまず簡単なモンスターのラフを作り、それを鳥山さんが正式なキャラクターとして仕上げていきました。
そしてスライムについて堀井さんは、最終的なデザインと自身のラフでは「別物」と振り返っています。
さらに鳥山さんが最初に作った案も一度ボツになり、その後、現在知られているスライムへつながるデザインが完成したことが対談で語られています。
つまり、現在では誰でも描けそうに見えるあのスライムも、
最初から当然のように存在していたデザイン
ではありません。
試行錯誤の結果、あの形になったのです。
なぜ「しずく型+顔」は強かったのか
ドラクエのスライムのデザインは非常に単純です。
丸みのある体。
大きな目。
口。
これだけで、すぐスライムだと分かります。
しかも表情があります。
モンスターなのに、何となく感情がありそうに見える。
これはキャラクターとして非常に強い特徴です。
ゲーム画面が小さく、使える色やドット数にも制約があったファミコン時代でも、シルエットだけで識別しやすい。
そして子どもでも簡単に覚えられる。
前回のマリオのひげと同じで、
単純だから弱いデザインなのではなく、単純だから強いデザイン
なのです。
弱いからこそプレイヤーが安心して戦える
ゲームデザインの面でも、スライムの弱さには意味があります。
RPGを初めて遊ぶプレイヤーは、まだ何も分かりません。
- 「たたかう」とは何か
- HPとは何か
- 敵を倒すとどうなるのか
- 経験値とは何か
- ゴールドとは何か
これを覚える必要があります。
そこで最初から強敵を出したらどうなるでしょう。
ゲーム開始3分で全滅。
もう一度。
また全滅。
これではRPG初心者は嫌になります。
だから最初の敵には、
普通に戦えば大体勝てる
という安心感が必要です。
そして、その役割にかわいいスライムは非常によく合いました。
「弱いのに人気者」という珍しいモンスターになった
通常、ゲームで人気が出やすい敵というと、
ドラゴン。
魔王。
巨大ボス。
強力なライバル。
こうした強いキャラクターを想像します。
ところがスライムは違います。
弱い。
序盤の敵。
何匹も倒される。
それなのに人気者です。
現在ではスクウェア・エニックス自身が、スライムを「ドラゴンクエスト」シリーズを代表する人気キャラクターとして扱っています。
ぬいぐるみ。
食器。
服。
文房具。
ゲームの主人公。
ついには他作品へゲスト出演することまであります。
「一番弱い敵」がシリーズの顔になる。
これはゲームキャラクターとしてかなり珍しい成功例です。
スライムだけでゲームが作れるまでになった
人気が高まると、スライムは単なるザコ敵ではなくなります。
スライムが主人公になる作品。
スライムを仲間にする作品。
スライムを育てる作品。
キングスライム。
メタルスライム。
ホイミスライム。
さまざまな派生種も生まれました。
中には全然弱くないスライムもいます。
つまり面白いことに、
スライム=弱い
というイメージを作ったシリーズ自身が、今度は、
強いスライム、珍しいスライム、仲間になるスライム
を大量に生み出していったわけです。
メタルスライムは「弱いスライム」の常識を逆手に取った
その代表がメタルスライムです。
見た目はスライム。
小さい。
かわいい。
ところが、簡単には倒せません。
逃げます。
攻撃もなかなか通りません。
その代わり、倒せば大きな経験値を獲得できます。
これは、プレイヤーがすでに、
スライムなら弱いだろう
と思っているからこそ成立する面白さでもあります。
定番を作ったから、その定番を裏切る遊びまでできるようになった。
スライムというキャラクターが強い理由の一つです。
その後、日本のRPGで「最初の雑魚」のイメージが広がった
『ドラゴンクエスト』は、日本の家庭用RPGを広く普及させた代表的なシリーズです。
その中でスライムが序盤の分かりやすい敵として登場し続けたことで、日本のゲーム文化では、
スライム=初心者でも倒せる弱いモンスター
という連想が非常に強くなりました。
ただし、ここは注意が必要です。
すべてのゲームのスライムが弱いわけではありません。
作品によっては、
- 物理攻撃が効きにくい
- 武器を溶かす
- 分裂する
- 毒を持つ
- 人間を取り込む
など、昔ながらの恐ろしいスライムも存在します。
だからゲームで新しいスライムを見つけても、
「どうせ弱いだろう」
と突っ込むと痛い目に遭うかもしれません。
かわいい敵を最初に出す意味
スライムの成功は、ゲーム作りの面でも興味深いものです。
ゲーム開始直後に出てくる敵は、プレイヤーがそのゲームで初めて出会う「悪役」です。
怖すぎれば初心者には重い。
弱すぎても存在感がない。
覚えにくければ印象に残りません。
しかしドラクエのスライムは、
- 弱い
- 見ればすぐ分かる
- 怖くない
- 倒しても罪悪感が少ない
- 何度出てきても覚えている
という条件を満たしています。
チュートリアル用の敵なのに、キャラクターとしても成立している。
ここが非常に強いところです。
もしドラクエのスライムが怖かったら?
想像してみましょう。
初代『ドラゴンクエスト』。
町を出る。
敵が現れる。
画面いっぱいに、腐った肉のような巨大な粘液。
中には前に食べられた冒険者の骨。
攻撃すると体が二つに分裂。
剣を溶かされる。
……。
小学生、泣きます。
ゲームとしては面白いかもしれません。
しかし「誰にでも親しみやすいRPG」の入口としては、かなり違う作品になっていたでしょう。
最初に出会う敵が笑顔のスライムだったこと。
これは『ドラゴンクエスト』の世界へ入るハードルを下げるうえでも、大きな意味を持っていたと考えられます。
友達に話せるゲーム雑学
今回の話を友達へ説明するなら、これだけ覚えておけば十分です。
スライムは元々「弱いモンスター」と決まっていたわけじゃない。
昔のファンタジーでは、人を飲み込んで溶かすような怖い粘液怪物もいた。『ドラゴンクエスト』で鳥山明さんが愛嬌のあるスライムをデザインし、序盤の弱い敵として有名になったことで、日本では「スライム=弱い」が強く定着した。
さらに、
D&Dのゼラチナス・キューブは普通に冒険者を飲み込む。
まで言えば、かなり使えるトリビアです。
まとめ:スライムは「弱い敵」からゲーム界のスターになった
スライムが弱いモンスターの代表になった理由を整理します。
- スライム系の怪物はドラクエ以前から存在した
- 昔のファンタジーでは必ずしも弱い存在ではなかった
- D&Dなどでは危険な粘液怪物として描かれる
- 『ドラゴンクエスト』はRPG初心者にも親しみやすい作品を目指した
- 鳥山明さんがスライムを愛嬌のあるデザインに仕上げた
- 序盤で倒しやすい敵として繰り返し登場した
- その結果、日本では「スライム=弱い敵」というイメージが強くなった
- 弱いにもかかわらず、シリーズを代表する人気キャラクターになった
ゲームを始める。
町を出る。
スライムが現れる。
今では何の違和感もありません。
しかし、その当たり前は最初から存在していたわけではありません。
怖い粘液怪物だったスライムを、
かわいくして。
弱くして。
最初に戦わせて。
何十年も登場させ続けた。
その結果、スライムはただの雑魚敵ではなくなりました。
「弱い」という特徴そのものを武器にして、ゲーム史に残る人気キャラクターになったのです。
参考資料
- スクウェア・エニックス「ドラゴンクエストとは」
- スクウェア・エニックス「鳥山明先生の訃報に接して」
- 電ファミニコゲーマー「堀井雄二氏・鳥嶋和彦氏対談」
- D&D Beyond「Basic Rules – Monsters / Oozes」
- D&D Beyond「Gelatinous Cube」



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