ゲームの主人公はなぜ人の家の壺を割っても捕まらない?RPG最大の謎を考える

RPG風の勇者が村人の家で壺を割り、中からアイテムを見つける様子と「なぜ人の家の壺を割っても捕まらない?」の文字 ゲームの歴史

世界を救う勇者が町へやってきました。

まず武器屋へ行く。

宿屋へ泊まる。

そして知らない人の家へ入る。

住人がいます。

気にせず部屋の奥へ進みます。

壺があります。

ガシャーン!

割ります。

薬草が出てきました。

持っていきます。

次にタンスを開けます。

服か何かが入っています。

それも持っていきます。

家の主人は何も言いません。

警察も来ません。

衛兵も来ません。

勇者は何事もなかったように次の家へ向かいます。

……。

いや、それ勇者じゃなくて泥棒じゃないのか。

RPGやアドベンチャーゲームを遊んでいると当たり前になっていますが、よく考えるとかなりおかしな行動です。

なぜゲームの主人公は、人の家へ勝手に入って壺を割っても捕まらないのでしょうか。

結論から言えば、

壺は「他人の所有物」として置かれているのではなく、「ここを調べてください」という探索装置として置かれているからです。

現実世界のルールよりも、ゲームとしての分かりやすさと楽しさが優先されているのです。

ゲームの壺は家具ではなく「宝箱の仲間」

現実の壺には用途があります。

水を入れる。

食べ物を保存する。

花を飾る。

高価な壺なら、当然割ってはいけません。

しかしゲームの壺は少し違います。

プレイヤーから見ると、壺は、

  • 中にアイテムがあるかもしれない
  • 割れるかもしれない
  • 動かせるかもしれない
  • 何かの仕掛けに使えるかもしれない

という「調べる対象」です。

見た目は家具でも、ゲーム上の役割は宝箱に近い。

だからプレイヤーは壺を見ると、

何か入ってるんじゃないか?

と考えます。

そしてゲーム側も、その期待に応えるようにアイテムを入れます。

任天堂公式も「壺や木箱を壊してアイテムを探せ」と教えている

この文化は、現在でも残っています。

任天堂の『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』公式「冒険の手引き」では、素材の集め方について、壺や木箱などを壊すことで食材や木の矢などが見つかる場合があると案内されています。

つまりゲーム側が正式に、

壺があったら壊してみよう

とプレイヤーへ教えているわけです。

👉 任天堂「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム 冒険の手引き」

現実世界なら、他人の壺を割れば怒られます。

しかしゲーム世界では逆です。

割らない方がアイテムを取り逃す可能性があります。

「壺は割れるもの」というルールをゲーム側が作った

さらに面白い話があります。

『ティアーズ オブ ザ キングダム』の開発者インタビューで、任天堂の開発者は壊せない壺にはすべてフタを付けたと説明しています。

なぜそんな細かいことをしたのでしょう。

プレイヤーが説明を読まなくても、

これは動かせる。

これは壊せる。

これは触れない。

というルールを見ただけで理解できるようにするためです。

つまり長いゲームの歴史によって、プレイヤーの頭にはすでに、

普通の壺を見る → 壊せそう → 壊してみる

という考え方が出来上がっています。

ゲーム開発者側も、その経験を前提にゲームを作っているのです。

👉 Nintendo「Ask the Developer Vol.9」

昔のゼルダでも壺は「持って投げるもの」だった

『ゼルダの伝説』シリーズでは、以前から壺を持ち上げたり投げたりする遊びが使われてきました。

例えば『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』の公式説明書では、壺などの横でボタンを押すと持ち上げ、もう一度操作すると投げられると説明されています。

壺は単なる背景ではありません。

プレイヤーが操作できる物体として設計されています。

👉 Nintendo「The Legend of Zelda: A Link Between Worlds Manual」

一度このルールを覚えると、新しいゲームでも壺を見るだけで試したくなります。

「これ、割れるかな?」

この好奇心そのものが遊びになるわけです。

では、なぜ人の家に壺を置くのか

ここで疑問が残ります。

洞窟の壺なら分かります。

敵の城の壺も分かります。

しかし、なぜ普通の村人の家にもアイテムを置くのでしょう。

理由の一つは、町そのものを探索場所にできるからです。

もし町でできることが、

  • 店で買い物
  • 宿屋へ泊まる
  • 重要人物と会話

だけなら、プレイヤーは必要な建物だけ回って終わります。

しかし、家の中に、

壺。

タンス。

本棚。

宝箱。

隠しアイテム。

などを置けば、

この町には何か隠されていないか?

とプレイヤーが歩き回るようになります。

町が単なるメニュー画面ではなく、探索する場所になるのです。

何もなさそうな場所にアイテムがあるから面白い

宝箱だけにアイテムが入っているゲームなら簡単です。

宝箱を見つける。

開ける。

終わり。

しかし壺やタンスにもアイテムがあると、状況が変わります。

この壺は?

あのタンスは?

井戸の裏は?

建物の横は?

行き止まりの先は?

プレイヤーはゲーム画面を注意深く見るようになります。

そして何でもない場所からアイテムを見つけると、

「見つけた!」

という小さな満足感があります。

アイテム自体は薬草一個でも構いません。

重要なのは、

自分で調べたから発見できた

という感覚です。

全部の家に「所有権」を設定するとゲームが別物になる

では現実的にしてみましょう。

人の家へ入ります。

壺があります。

割ります。

家の主人が叫びます。

「何してるんだ!」

衛兵が来ます。

逮捕されます。

罰金を払います。

盗んだ薬草は没収。

町の評判も下がります。

……。

これはこれで面白いです。

しかし、もう単純な探索RPGではありません。

ゲーム側には、

  • 誰の所有物なのか
  • 盗品かどうか
  • 誰かに見られたか
  • 住人がどう反応するか
  • 衛兵を呼ぶか
  • 罰金はいくらか
  • 主人公の評判をどう変えるか

といった仕組みが必要になります。

壺一個を現実的に扱うだけで、巨大な犯罪システムが必要になるのです。

実際に「盗むと捕まるゲーム」もある

もちろん、この仕組みを本当に作ったゲームもあります。

『The Elder Scrolls』シリーズのような作品では、他人の所有物を盗む行為そのものがゲームシステムになっています。

『The Elder Scrolls Online』では、所有物を盗む、鍵を開ける、不法侵入するなどの行動が犯罪として扱われます。

しかも誰かに目撃されれば賞金がかけられ、衛兵に追われることがあります。

市民が話してくれなくなる場合すらあります。

👉 Bethesda Support「What criminal actions can trigger bounties?」

つまりゲームでも、

本気で現実的にしようと思えば、主人公を泥棒として扱える

のです。

ただし、その場合「盗む」という行為自体がゲームになります。

捕まらないゲームでは「盗み」そのものを省略している

一方、昔ながらのRPGではそこまで必要ありません。

目的は、

世界を救う。

魔王を倒す。

ダンジョンを探索する。

仲間を育てる。

といったことです。

そこで村人の壺を一つ調べるたびに、

所有者。

犯罪。

衛兵。

裁判。

罰金。

まで処理していたら話が進みません。

だから多くのゲームでは、

主人公が町の壺を調べることは犯罪として扱わない

という単純なルールにしています。

リアルではありません。でも圧倒的に遊びやすい。

昔のゲームではNPCに全部反応させる必要もなかった

昔のゲーム機は、現在ほど大量の情報を扱えませんでした。

町の人には決められた会話があり、壺には決められたアイテムがある。

それだけでもゲームは成立します。

主人公が壺を割るたびに住人の会話を変え、衛兵を動かし、町全体の状態を変化させるような仕組みを作れば、制作する側の手間も大きくなります。

それなら、その労力を、

  • 新しい町
  • 新しいモンスター
  • 新しいダンジョン
  • 物語
  • ボス

へ使った方がゲームとして分かりやすい。

こうして、

勇者は町を自由に調べていい

という都合のいいルールが定着していきました。

プレイヤーも「これは泥棒ではない」と思っている

ここも面白いところです。

ゲームで民家のタンスから薬草を持っていっても、ほとんどのプレイヤーは、

「俺はいま窃盗をした」

とは思いません。

むしろ、

「アイテム見つけた!」

と思います。

なぜでしょう。

ゲームがそれを犯罪として扱っていないからです。

音も鳴る。

アイテム名も表示される。

所持品へ普通に追加される。

誰も怒らない。

つまりゲーム側から、

これは取っていいアイテムですよ

と教えられているのです。

ゲームでは「できること」が許可証になる

ゲームには面白い感覚があります。

できるなら、やっていい。

壁は通れない。

鍵のかかった扉は開かない。

しかし壺は割れる。

タンスは開く。

宝箱も開く。

するとプレイヤーは、

ゲームができるように作っているなら、やるべきなんだろう

と理解します。

これは現実とはまったく違います。

現実世界では、

できること=やっていいこと

ではありません。

しかしゲームでは、操作できる物体そのものが遊びのヒントになります。

壺は「破壊していい物体」の記号になった

ゲームを長く遊んでいる人なら、壺を見るだけで分かります。

割れる。

木箱を見る。

壊せる。

赤いドラム缶を見る。

たぶん爆発する。

ヒビの入った壁を見る。

壊せるかもしれない。

つまりゲームには、言葉を使わなくてもプレイヤーへ意味を伝える記号があります。

壺もその一つです。

そして一度そのルールを覚えたプレイヤーは、別のゲームでも同じように行動します。

開発者は説明書に、

壺を見つけたら壊してください

と毎回書く必要がなくなります。

ゲーム文化そのものが説明書になっているのです。

NPCはなぜ怒らないのか

では、家の中に本人がいる場合はどうでしょう。

目の前で壺を割る。

アイテムを取る。

普通に話しかける。

住人。

「魔王を倒してください!」

……。

いや、その前に壺の弁償を請求しろ。

これもゲーム上の優先順位です。

NPCには、

ストーリーを伝える。

ヒントを出す。

世界観を説明する。

という役割があります。

壺を壊された反応まで毎回入れてしまえば、本来伝えるべき情報が分かりづらくなる場合があります。

だから住人は、勇者の奇行を華麗に無視します。

世界を救う勇者だから許されている説

ここでゲーム好きなら一度は考えます。

世界を救ってくれるんだから、壺くらい許してるんじゃない?

確かに可能性はあります。

魔王が世界を滅ぼそうとしている。

勇者が戦ってくれる。

だったら家の薬草くらい持っていっていい。

壺一個くらい安い。

……。

でもゲーム開始直後は、村人が本当に主人公を勇者だと知っているとは限りません。

知らない男が家へ入ってきて、壺を割って、中身を持っていく。

やっぱり現実なら通報案件です。

これは世界観で無理に説明するより、ゲーム上の約束として受け入れた方が自然でしょう。

逆に「壺を割るな」と言われたら気になってしまう

面白いことに、ゲーム内で、

絶対にこの壺を割るな

と言われたらどうでしょう。

割りたくなります。

ゲームでは「できること」が提示されると試したくなるからです。

何も言われなければ普通に通り過ぎる壺でも、

「触るな」

と言われるだけで重要な物体になります。

これもゲームデザインの面白いところです。

現代ゲームでは「壺を割る」こと自体が一つの文化になった

今では、ゲーム内の壺を割る行動そのものがネタとして通じます。

勇者。

剣。

壺。

見つけた瞬間、破壊。

中身を回収。

誰も怒らない。

何十年も繰り返された結果、プレイヤーも開発者も、

ゲームの壺とはそういうもの

と理解しています。

本来ならおかしな行動だったはずなのに、今ではおかしいこと自体がゲームあるあるになっています。

友達に話せるゲーム雑学

今回の話を友達へ説明するなら、これだけ覚えておけば十分です。

ゲームの主人公が人の家の壺を割っても捕まらないのは、壺が現実の所有物ではなく「探索してアイテムを見つけるためのゲーム装置」として扱われているから。

さらに、

任天堂は現在でも「壺や木箱を壊すとアイテムが見つかることがある」と公式に教えている。『ティアーズ オブ ザ キングダム』では、壊せない壺にはフタを付けて見分けられるようにしている。

と話せば、かなり良いゲームトリビアになります。

まとめ:勇者が泥棒なのではなく、壺がゲーム装置だった

主人公が人の家の壺を割っても捕まらない理由をまとめます。

  • 壺は探索対象として使いやすい
  • 中にアイテムを入れることで町を探索させられる
  • 何でもない場所からアイテムを見つける楽しさが生まれる
  • 所有権や犯罪処理まで実装するとゲームが大きく複雑になる
  • 犯罪そのものを遊びにするゲームでは、実際に盗みへの罰も存在する
  • 長いゲーム文化によって「壺=壊せる物」という共通認識ができた
  • 現在ではゲーム開発者自身も、その認識を利用して設計している

勇者が人の家へ入ります。

壺を見つけます。

割ります。

薬草を取ります。

住人は何も言いません。

現実なら完全にアウトです。

しかしゲームでは、それが正解になることがあります。

なぜならプレイヤーが壺を割るのは、犯罪をしたいからではありません。

「ゲームなら、この壺には何かあるかもしれない」と知っているからです。

だから次にRPGで民家へ入って壺を見つけたら、少しだけ考えてみてください。

「これ、人の家なんだよな……」

そして――。

たぶん割るでしょう。

参考資料

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